野球のスポーツ障害 (肩の障害編 vol4)

肩関節上方関節唇損傷(SLAP損傷) 



関節唇は関節窩縁の全周に付着していますが、最上部は上腕二頭筋長頭筋腱の起始部も含んでおり、上方の関節唇は可動性を有するゆるい結合となっております。

この部分に亀裂や剥離が生じたものがその損傷形態により、
肩関節上方関節唇損傷(SLAP損傷)として分類されており、比較的多く見られる肩のスポーツ障害です。







投球動作時、肩関節前方に痛みがあるときは肩関節上方関節唇損傷(SLAP損傷)上腕二頭筋腱損傷や肩腱板損傷、肩関節前方不安定症が疑われます。

投球フォームや各投球フェーズでの痛みをチェックすることにより、損傷部位を推定し、MRI
検査で診断を確定することになります。


上前方関節唇損傷では投球動作のコッキング期からアクセレレーション期に痛みが生じます。

上腕二頭筋長頭腱には、ボールをリリース、フォロースルー期において牽引張力が加わり、腱の付着部から断裂したり、上腕骨頭の溝で擦り切れて断裂することもあります。









肩関節が十分な機能を発揮するためには、肩関節包、腱板、滑液包、三角筋などの軟部組織の協調運動が必要であります。

したがって肩関節包、腱板、滑液包、三角筋により構成される肩関節の滑走機構のいずれに障害が発生しても肩機能には障害が発生します。

肩関節唇は膝半月板と同じく、関節の動きをスムーズに誘導する役割と、骨同士がぶつかる衝撃を和らげる働きをしていますが、度重なる外力(主に圧迫力)により断裂します。

一方、関節唇の前方を通る上腕二頭筋長頭腱は、二頭筋収縮時に牽引力が加わり、さらに上腕骨頭で角度を変えるため、溝(上腕骨二頭筋腱溝)で擦り切れていくのであります。

 
SLAP損傷は、高校生から大学生にかけて多くみられ、症状は投球時の疼痛がメインであります。「何か腕が抜ける感じがする。」と訴える選手が多く、投球時痛以外には、ほとんど陽性になる所見が乏しいのも特徴であります。








SLAP損傷の保存療法は腱板機能強化を中心にしたトレーニング、肩甲骨の協調運動を行っていき、投球フォームでも過角形成を起こさないようなフォームの獲得を目指す事になります。

腱板関節面の完全断裂を起こしてしまっている場合には、保存的療法での完治は難しく、競技レベルを考え手術を考慮する場合も多いのであります。










 
カテゴリ:スポーツ障害 | 07:24 |
野球のスポーツ障害 (肩の障害編 vol3)

回旋筋腱板損傷




投球障害肩は、腱板、関節唇および関節唇・関節包複合体や上腕二頭筋長頭腱、肩鎖関節などに損傷が生じ症状を呈するのですが、通常は単一部位ではなく複数部位の損傷が生じている場合が多く、肩の痛みの原因として、腱板損傷は非常に多く見られます。

回旋筋腱板は肩関節に安定性をもたらす、筋肉および腱の複合体、肩甲下筋(けんこうかきん)、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん))のことです。
腱板損傷は擦り傷のような腱板炎の状態から、部分断裂から完全断裂に至るまで広い範囲が含まれています。








腱板損傷は、明らかな外傷がなくても次第に発生してくることが多いのですが、スポーツ中の怪我や交通事故などの外傷を契機に生じることがあります。

腱板損傷が発生しやすい理由は、肩関節の解剖を考えると理解できます。腱板はいわゆる球状関節の範疇に入り、肩甲上腕関節に安定性を与えています。
肩関節の運動方向により様々なストレスが、腱板を構成する腱および筋肉に加わります。








腱板において最も損傷を受けやすい部位は、肩峰の下にある肩峰下腔と呼ばれる狭い空間を通過しなければならない棘上筋腱であります。肩峰下腔が狭くなって腱板損傷を引き起こす原因については、

∞板炎(腱の炎症、腫脹)
滑液包炎(滑液包―肩峰下腔においてクッションとなり、また腱板の動きを滑らかにするー肩峰下滑液包の炎症と腫脹)
8峰あるいは鎖骨から下に向かって伸びる骨棘
じ朕佑慮峰の形の変異

などがあります。








肩峰下腔が狭くなればなるほど、腱板が挟まれるようになるインピンジメント症候群を起こします。
そして腱板が骨に挟まれ擦られるほど、腱板は刺激され腫れるようになります。この悪循環が結果として、腱板を損傷することになります。
この過程が繰り返されると、腱板の強度は低下し、そこに通常の力が加わることにより完全断裂を引き起こすことになります。








断裂は周りの筋に引っ張られ次第に大きくなります。特に高齢者では、腱の治癒能力が低下しており小さな断裂でも直りにくくなります。以前は50肩として取り扱われていた症例も、MRIなどの検査機器の発達により、腱板損傷として取り扱われるようになり年齢とともに進行します。
このように肩関節が緩くなったことを肩関節不安定症と呼びます。不安定症は腱板に加わるストレスを増大し、またインピンジメント症候群や腱板断裂を引き起こすことがあります。








腱板損傷も保存的治療が基本であり、インピンジメント症候群と同じように関節可動域と腱板機能の改善と肩甲骨との協調性の改善にあります。

もちろん症状が強い時にはノースローが必要になり、過角形成など投球フォームの不良を認める場合が多いので、体幹の回旋や下半身の使い方を指導する事は必要であります。保存療法には反応しやすく、治癒する可能性が高いので若い選手には、外科的手術ではなく、あくまでも保存療法を第一とすることが望ましいと思われます。

しかし、一方、完全断裂を起こした場合は、関節窩鏡などで腱板縫合手術を行う方が復帰の時期も考え効果が高いようです。


















 
カテゴリ:スポーツ障害 | 07:44 |
野球のスポーツ障害 (肩の障害編 Vol2)


 肩インピンジメント症候群

 
「インピンジ」は、日本語で言うと「衝突」という意味であり、症候群というのはシンドロームとも言われ、病名と考えていただければよいと思います。

肩を上げていくとき、ある角度で痛みや引っかかりを感じ、それ以上に挙上でなくなる症状の総称です。

基本的に、投球時痛がメインでありますが、悪化するとこわばりや筋力低下なども伴い、夜間痛を訴えることもあります。


肩を挙上するとき、あるいは挙上した位置から下ろしてくるとき、ほぼ60-120°の間で特に強い痛みを感じることがあり、有痛弧徴候(ペインフルアーク)といわれます。








 
野球などスポーツによる肩インピンジメント症候群は、大結節が肩峰にぶつかるのではなく、上腕骨が若干前方に偏位し、烏口肩峰靭帯にこすれて肩峰下滑液包の炎症を起こすのであります。骨形態の個人差として肩峰がもともと下方に突出している場合や、加齢変化として肩峰下に骨棘ができた場合にも炎症をおこすと理解されます。

上腕を外転する課程で、上腕骨と肩峰の間に腱板の一部や肩峰下滑液包などが挟み込まれ、繰り返して刺激が加わると滑液包に浮腫や出血が起こります。








安静にするとこの変化は正常に戻り症状は軽快しますが、動作の反復によっては症状の再燃を繰り返して慢性化します。進行すれば、時に腱板の部分断裂となったり、肩峰下に骨の棘ができたりして痛みがなかなかとれなくなることもあります。

基本的に、肩インピンジメント症候群は、ボールの投げすぎが原因でありますが、いわゆる手投げの状態を繰り返した結果、引き起される病態とも考えられ、実際、こうした選手の投球フォームは手投げとみられるケースが多く、投球フォームの改善が治療につながる場合も多いようです。


高校生から大学生にかけての若年者で、技術的に未熟な選手と、10年以上競技を続けたような競技レベルの高いベテランプレーヤーに多いのも特徴です。

治療の基本は肩関節可動域と腱板機能の改善と肩甲骨との協調性の改善にあります。年齢が若かくても頻度的には多く、もちろん症状が強い時にはノースロが必要になります。

投球フォームの不良を認める場合が多いので、体幹の回旋や下半身の使い方を指導する事は必要であります。保存療法には反応しやすく、治癒する可能性が高いので若い選手には、外科的手術ではなく、あくまでも保存療法を第一とすることが望ましいと思われます。

一方、競技歴の長いベテランプレーヤーには保存療法は効果があっても再発しやすく、肩峰形成の効果が高いようです。







 
カテゴリ:スポーツ障害 | 19:36 |
野球のスポーツ障害 (肩の障害編)

 肩の障害編 vol1


此の度、当院のHPがリニューアルしたのでありまして、それもこれもウエブマスターのご尽力によるところが大きいのであります。
で、「内容も充実させなければ。」というマスターの厳命のもと、私もスポーツ障害の原稿を書きためた次第であります。少しずつですがこちらからアップしてまいりますので、ご参考になれば幸甚であります。


まず言っておかなければならないのは、投球動作というものは、肩や肘に大変な負担をかけている。という事なのであります。

1995年にGlennらが、コッキングからボールリリースまで0.139(±0.017)秒という非常に短い時間の中で、静止していたボールに150km近いスピードまで力を伝える動きが投球動作であり、この投球の動きの中で、関節に負担のかかる瞬間が2カ所あると報告しています。

1回目は投球方向側の足が接地し、体幹から上肢までの動きを使ってボールを前に動かしていく瞬間、2回目はボールをリリースした直後に急速に減速する瞬間であります。

1回目には44Nmの外転、87Nmの水平外転、67Nmの内旋方向のトルクが肩関節に加わり2回目のボールをリリースする瞬間には950Nの引っ張られる力が肩関節に作用し、ボールがリリースした後には1090Nの圧迫される力が肩関節に作用するとされています。

成人の前方関節包の強度が800〜1200Nとされているので、投球する度に壊れるギリギリの力がかかっていることになり、成長期に投球を行っていた選手では、骨成長にも当然影響が出ると考えられます。(ちなみに、1N(ニュートン)は、だいたい100gの物を持ったときの手に感じる力ですので、投球する度に約100kgの負荷がかかっていることになる。)

この負荷に耐えるために、体は微妙なバランスで投球フォームを形成しております。しかし、コンディショニング不足や疲労などからフォームが乱れてくると、この100kgの負荷が関節を壊し始めてしまうのであります。



            




投球動作は、足のつま先から手の指先まで協調した動作によってなされ、この連続した動作を運動連鎖と呼んでおり、肩や肘にかかる負担が最小限の状態で、速いボールを投げるためには、下半身から体幹、肩甲帯、上肢、指先へと連続する効率の良いスムーズな運動連鎖が必要となります。

しかし、コンディショニングの不良や、オーバーユースによる疲労、スキル不足などによって、運動連鎖の上流にあたる部位の機能が低下すると、その下流にあたる部位では、上流での機能低下を補おうとするためにストレスが増大し、障害発生につながります。

特に股関節や体幹、肩甲骨周囲に問題が生じることで、肩や肘に過剰な負荷がかかり障害が発生している場合が多いのであります。


加速期における体幹の運動は、ほぼ非投球側を回転中心とした回転運動であり、投球障害を有する肩関節では、この回転運動の破綻認めるのであります。

このような障害発生には運動連鎖の破綻が密接に結びついており、肩関節痛で来院しても実際は腰をかばって投球していたり、肘をかばって投げていて結果的に肩関節痛を引き起こしているケースが多いのであります。


施術計画の最初は肩や肘のどこに病変があるのか、どうしてそこに病変が起こるのかを、野球歴、ポジション、環境、練習内容などを吟味しながら探っていく事が必要になるのであります。






                                           
カテゴリ:スポーツ障害 | 18:32 |
医師川柳
医師川柳番外編に垣間見えるもの

毎朝到着するメールにm3.comというのがあります。医療関係者専門のサイトで、トピックスやら医療ニュースやら物品の販売やら。半分以上スルーしているのですが、先日、面白い記事を見つけたのでありました。
医師川柳番外編 「患者」「家族」「医療とは」編 なるものでありまして、医師の悲哀や激務の様子が垣間見え、ちょっと笑えたり、考えさせられたり、、、

そんな中、「余命告げ 裁判怖くて 短めに」という川柳に考え込んでしまったのでありました。

確かに、余命宣告された患者さん、知っている限りのほとんどが、宣告よりも長生きされているのであります。たとえば一昨年、当院の患者さんのご主人が、「余命3カ月」の宣告を受けたのでありました。ガンが再発して膵臓に転移しての宣告だったのですが、その後、1年近く頑張っておられました。
奥さんも息子さんも懸命に看病に尽くしており、「余命3カ月」を過ぎてからは、「毎日生きた心地がしませんでした。」と後述されていたのが印象的であり、亡くなられたお通夜の時、「余命宣告よりずいぶんお父さん頑張りましたよね。」と慰めたのも覚えています。
余命の宣告する際に、医師は、「裁判」を考えるのか。ちょっとした驚きでありまして、余命宣告よりも長生きすれば、「患者さんが頑張った。」であり、余命宣告よりも早く亡くなれば「医師の落ち度。」になる。それを未然に防ぐために短めに宣告する。

それってちょっと、、、、

医師が適切な判断をし、死の淵に立つ患者さんに接して、「あまり長生きをして家族に迷惑をかけたくない。」とか、「病気には負けへん!もっと長生きして見せる!」とか、患者さんご本人の意向や意志が、なおざりにされているんじゃなかろうか。実際には余命宣告の後、本人や家族の意向、治療指針などの説明や治療が行われるのでしょうが、告げた余命は実際よりも短く見積もって言っていると思うと、少し哀しく感じてしまうのでありました。
でもまぁ、たかが川柳やないか!とか、全部のお医者さんがそうじゃないやろ!とかの声が聞こえてきそうなのでこの辺にしておきますが、、、

そろそろと、余命宣告をされるかもしない年齢が近付いている、オヤジの呟きなのでありました。

以下、川柳の一覧です。




【患者】
認知症 車で来るのは やめにして
効きました 飲みにくいけど あの座薬
待ち時間 医者のはしごは やめとくれ
治りたきゃ タバコ吸わずに 早く寝ろ
素人を 信じる患者 医者泣かせ
自己負担 無い人何でも 希望する
放置ほど ガン以外で 楽なものなし
糖尿病で バイキングに行き どうするの
外来で 不満言うやつ 他に行け
バイアグラ 欲しいと言えず 紙に書く
何回も 話したけれど 聞いてない
認知症 他人のものは わしのもの
患者さん 何人見ても やってくる
風邪だけで 病院来ると うつされるよ
ありがとう その言葉で 明日も行く

【訴訟やトラブル】
余命告げ 裁判怖くて 短めに
先生が 頼りと言われて 憎まれて
弁護士の 後出しジャンケン 得意技
救急車 タクシー代わりの モンスター
歩き降りる タクシー代わりの 救急車

【家族、自宅】
我が子から 悲しい一言 また来てね
背中見た はずの息子は 他科へ行き
私立医大? あと100年 待っててね 
子の病気 妻は俺には 聞いてこない
女房を 満足させる 腕はなし
医師じゃない 僕の本業 家事手伝い
自宅でも 携帯が鳴る 夜中でも
0歳児 ママはうるさい あっち行け
0歳児 パパはなんにも わからない
働けど 悠々自適は 家族のみ
子持ち女医 家事も仕事も 半人前

【医師とは、医療とは】
医者とても 医者通いする 古希のころ
医者やめて 他に何かが あるわけでもなし
医師辞めて やっと生活 人並みに
人のため 世のために働き ボロボロに
医師になり 健康オタク 目指してる
いつまでも あると思うな わが命
虐待と 医療行為は 紙一重
ほどほどにと ゆるい酔いどれ 食事指導
敬老の日 誰かくれぬか 毒饅頭
医師は石 意思をなくせば ただの石
医師となる ならぬも地獄 なれぬのも



                                                                                                     
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